Coinhive事件が最高裁で無罪になって思うこと

進化心理学

Coinhive事件が最高裁で無罪になりました。

「広告表示と比較して、PCに与える影響は許容範囲内」──Coinhive事件、最高裁の判決全文
仮想通貨のマイニングツール「Coinhive」の設置によりWebデザイナーの男性が不正指令電磁的記録保管罪に問われた「Coinhive事件」を無罪と判断した理由について、最高裁が全文を公開した。

この事件は以前から注目していたので、興味深い結果でした。

Coinhive事件に対する感想

私個人の意見としては、もともと無罪でもいいと思っていました。

仮想通貨が好きだから、同情的だったのかもしれません。

ただ、仮想通貨が好きではない人からすると、勝手に自分のPCを操作されるのは嫌でしょう。

その気持ちもわかります。

ここでCoinhiveと比較されるのが、webサイトの広告ですよね。

広告も、webサイトの訪問者が見たがっているとは限らないものを表示します。

しかも、広告はwebサイトの訪問者のPCやスマホを操作しているわけです。

だから、広告が嫌いな人もいるでしょう。

だとすると、なぜ仮想通貨のマイニングが駄目で広告の表示がOKなのか疑問です。

広告はインターネット普及以前から社会に存在したから許されているのでしょうか。

なぜ仮想通貨のマイニングに厳しくて広告の表示がOKなのか

ここで裁判の仕組みを振り返ってみましょう。

裁判所は法律をもとに判断します。

その法律は国会で作られます。

国会では、国会議員が国民の声をもとに法律を作ります。

だから、裁判所の判断は国民の意思が影響を与えているわけです。

多数の国民が「悪質な広告は駄目」といって政治家を動かしたら、悪質な広告は違法になるでしょう。

要は、多数派の国民がCoinhiveの仕組みを正確に理解できるほど技術に詳しくないことが背景にあると思います。

広告だって、悪質なものや動きのあるものは嫌ですからね。

特に、スマホ画面をスクロールするとついてくる広告とか。

ほかには、広告を閉じる×ボタンが極端に小さくて押せないものとか。

Coinhiveより先に、そういう悪質な広告を訴えてほしいです。

そういう意味で、警察や検察が着目する点がズレている気はします。

警察や検察にも頭のいい人は沢山いるんですが、新技術に対して厳しい気はします。

一方、だからといって「警察や検察はITに疎い」などと批判するのもまた違うと思います。

人間は先に感情があり、あとから理屈を作る

私が言いたいのは、「検察が悪いのではなくて、人間は感情で物事を判断する生き物だから仕方ない」ということです。

人間はまず感情で物事を判断し、あとから感情に沿った理屈を作ります。

これは、脳や神経といった内臓がそういうふうにできているという話です。

まあ、生物としての進化の結果ですよね。

私たち人間の祖先の環境(1万年以上前の世界)だと、初めて見るものに対して警戒心を持つのは当然です。

私たちの脳や神経は1万年前からあまり変化していません。

だから、今回の事件に関しては誰が悪いという話ではなく、人間がそういう生き物だということになるでしょう。

ではなぜCoinhiveが検察に嫌われたかというと、それはCoinhiveがどれだけwebサイト訪問者に不利益を与えるかがわかりにくいからでしょう。

進化心理学には「協力と裏切り」という研究分野があります。

進化心理学の教科書『進化と人間行動』によれば、人間は恩の貸し借りをしています。

人間もまた進化の産物であるという視点に立つと、人間の行動や心理はどのように捉えなおすことができるだろうか。本書では、最新の進化生物学の知識をもとに、人間の行動や心理を解明するための一つのアプローチを概説する。

例えば、webサイトの訪問者は無料で記事を読むことができます。

これが恩です。

そして、恩を受ける代わりに広告を見ます。

これが恩返しです。

この、恩の貸し借りは大体釣り合っています。

もし、つまらない記事内容で広告が大量にあったら、webサイトの訪問者は嫌な気持ちになります。

人間は、恩の貸し借りが釣り合っているかどうか無意識のうちに計算しているのです。

ただ、この計算はけっこう丼勘定だといわれています。

多少損したくらいではあまり気になりません。

だから、そこにつけ込んで「釣り合う量より多めに利益を得よう」という人も出てくるわけです。

そうすると、それに対して「カモられないように防衛しよう」という心理的プログラムも発達します。

今回のCoinhive事件では、検察官の「カモられないように防衛しよう」という心理的プログラムが発動したのではないかと考えられます。

つまり、

「Coinhiveが、webサイト利用者に与えるメリット以上に不当に大きい利益を得たのではないか」

という疑いがあるのです。

いくら人間の損得感情が丼勘定でも、やっていいことと悪いことがあるのです。

損得の量をちょろまかしたり、隠れてコソコソ何かしたりするのはフェアではありません。

webサイトを訪問した際に、きちんと説明をして同意を得ればいいかもしれませんね。

新しいものを恐れるという、人間の本性と向き合う

こういう、新しい技術に対して

「よくわからないから怖い」→「怖いから嫌だ」→「嫌だから駄目」

というのは人間として自然な反応だと思います。

人間の本性としてそうなるのは、一定程度仕方ない。

ただ、日本社会の将来を考えると、新しい技術を許容する器の大きさはあってもいいと思いました。

日本は主要先進国の中でも経済成長が遅くなっているので、ここで新しいことに挑戦しないとまずいでしょう。

まあ、Coinhiveがどうも胡散臭いというか、せこいという感覚はわかりますが。

個別具体の事例としてのCoinhiveは色々問題がありました。

ただ、社会全体としては今後こういったものを見守る温かい目があってもいいと思います。

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